2017年7月11日火曜日

【TORCH Vol. 097】 ともに戦える「仲間」のつくり方

     池田 敦司

「何をやるか」ではなく「誰とやるか」で物事は決まる。 

今までの業界常識を覆す新しいビジネスをスタート、人材紹介ビジネスの世界において一躍風雲児となった著者南壮一郎くんの言葉である。

一人っきりでの会社起業、まだ誰も行っていないビジネスの立ち上げ、悪戦苦闘と挫折を経て、素晴らしい仲間づくりにたどり着き、華々しい船出にこぎつけるまでのプロセス、筆者の思考と行動をこの本は綴っている。

私と筆者との出会いは12年前まで遡る。 

20051月、仙台は市民の長年に渡る念願であったプロ野球新球団誕生への期待感で満ち溢れていた。

私はこの50年振りのプロ野球新球団誕生というエポックメイキングな機会に携わろうと、25年間余り勤務していた東京の百貨店を退職し、地元仙台に戻ってきた。

もう開幕まで2か月半と間近に迫った時期に、私はスタジアム事業本部長として球団に加わった。

新球団を作るということはゼロからのスタートであり、球団運営に必要なすべてのことを短期間に準備する必要があるわけであるが、選手の確保、球場の契約、試合日程の編成等、対外的調整が必要な事項から片付けていかねばならず、自前的な要素の多かったスタジアム運営は後回しにならざる得ない状況下であった。

球場はまさに改修工事の真っ最中、というか、八割以上壊され、ガレキが山積みの状態。あと二か月余りで建設が出来るのであろうか、と一抹の不安を覚えたくらいであった。

球場建築も大きなアウトラインの設計図はあるものの、部屋割り、テナント区画のしつらえ、中売り用ビール基地の設計などオペレーションが決まらないと設計が進まない工事も山積みであった。 

私の入社当時、スタジアム事業本部は部下三人。そのうちの一人が筆者であった。

「ファンエンターティンメント部長の南です」

年の頃は30代半ばであろうか??少し変わった雰囲気の青年に挨拶をうけた。

球場のソフト、試合演出やイベントプロモーションを担当しているとのことであった。

「ファンサービス」という上から目線の言葉ではなく、お客様をもてなすという意味の「ファンエンターティンメント」という名称は彼が拘って名付けたものであった。

彼は今まで自分がいた百貨店業界ではあまり見られない人種であり、いくつかの違和感を覚えたことを記憶している。

目つきは険しく、自分の意見はハッキリ主張する、自信満々でちょっと生意気な若者。

そして、質問をすると返答までに独特の間合い。。。

後から聞いてその訳が分かった。

彼は学生時代のほとんどを海外で過ごし米国の大学を卒業、野球団に参画する前も外資系企業で勤務していたバイリンガルであった。

そして独特の会話の間合いは、頭の中は英語で考えて日本語に翻訳しつつ話す、というとてつもない思考能力ことから生じていたことであった。 

その当時は、スタジアムのハード建築から、運営やオペレーション体制に基づく内装、装置の設計、テナント導入や交通対策、警備計画に至るまで、すべてを一つのゴールに向けて制限時間内に解決せねばならない戦いの日々。

睡眠時間、食事時間が無駄に思え、日夜仕事に没頭する日々が続いた。

振り返ってみれば間違いなくブラック企業状態であったが、誰一人文句を言う人間はいなかった。

みんな「50年に一度有るか無いかという貴重な体験」「歴史に名前を刻める仕事」という使命感に溢れていたのであった。

実際、球場演出のほとんど彼がてがけ、関係者とのハードな利害調整を経て必ず実現する「突破力」を彼は多いに発揮した。

彼が部下でいてくれたおかげで実現できたことは多々あった。

しかし、一方では強引とも思える業務推進力で、自ら敵を作ってしまうこともままあったと記憶している。 

彼は球団立ち上げの2年後、自分の夢の実現の為に、球団を退社、新たな道を歩み始める。

この本は、新たなビジネス立ち上げにおける彼の葛藤の様子を克明に描いている。

テーマとしているのは「仲間づくり」である。

新しいビジネスモデルを考え付つき、ほとんど知識のないインターネットビジネスに挑戦、

個人の知見と経験では突破できない大きな壁、挫折、自分1人でやることの限界と信じて任せ合える仲間づくりへの気づき、そして仲間を増やしていく。

旅を続け仲間を増やすたびにその集団の戦闘力が上がるといった、当時流行したファミコンのRPGのようである。

しかし、そんな本人の多大な苦労とは相反し、爽快なテンポで物語は描かれている。 

個人の能力も極めて高く、推進突破力にあふれている優秀なビジネスマンであった筆者が、組織を作り、仲間づくりを行い、人を率いる経営者としてステップアップしていった姿が垣間見れるのは、50年に一度の新球団立ち上げをともに取り組んだ「仲間」として、とてもうれしい限りである。 

仕事は、社会は、一人では成り立たない。

これから社会に出る学生には是非読んでもらいたい本である。

<対象書籍>
 「ともに戦える「仲間」のつくり方」  ダイヤモンド社刊 ・ 南 壮一郎 著